大野参事官の命令によりスマート物流センターの現場から締め出されたチームslaboは、事務所へと戻り独自のアプローチで捜査を開始していた。
「…信じられないです!私たちの解析を『絵空事』だなんて…!」
比嘉がぷくーっと頬を膨らませながら、怒りの勢いのまま爆速でキーボードを叩く。画面には、センサーから抽出した膨大なエラーログが流星群のように流れては落ちていた。
「まあまあ、比嘉ちゃん。昔気質の刑事さんには、目に見えないデータよりも自分の足で掴んだ証拠の方が確かなのよ」
エラが淹れた温かいジャスミンティーを丸テーブルに置きながら、優しく微笑む。
「ですが、エラさん。大野参事官のやり方では、今回の『事件の本質』には絶対に辿り着けません」
賢人は静かに眼鏡のブリッジをスッと押し上げた。
「CTOが倒れた原因は毒物でも外傷でもない。システムを完全停止させたウイルスとともに、監視カメラには映らない超高周波の音波パルスが室内に照射されていた…。これは物理的な嫌がらせではなく、高度に計算された『システムの脆弱性(バグ)を突いたテロ』です」
その頃、警視庁本部では――。
大野参事官は連日、寝る間も惜しんで現場周辺の防犯カメラのローラー作戦と、被害者の関係者への地道な聞き込みを続けていた。
「参事官、本庁の鑑識からは『システムの不具合による偶発的な事故』という報告書が届いていますが…」
部下の刑事が恐る恐る尋ねる。大野は禁煙パイポをガリッと強く噛み締めながら、メモ帳をパサリとデスクに叩きつけた。
「アホか!事故な訳があるか!被害者の靴底の減り方と、事件当日の警備員の動線がおかしいんだよ」
大野のダブダブのスーツはしわくちゃで、目の下には濃い隈ができていた。しかし、その瞳だけは獲物を狙う鷹のように鋭い。
「事件発生の10分前、西側の搬入口付近で『配管の点検業者』を名乗る男が目撃されている。だが、ビルの管理会社に確認したらそんな点検の予定は入っていなかった。さらに…その男が持っていた工具箱、歩くたびに『金属が擦れ合う高音』が聞こえたって近隣の店舗の奴が言ってた」
「えっ…高音ですか?」
「ああ。聞き込みの成果だ。目に見えねえデータとやらは知らんが…現場には必ず『人間の違和感』が残るんだよ」
その日の夜。藤堂が大野の収集した現場資料のコピーを手に、slabo事務所を訪れた。
「大野参事官の泥臭い聞き込みの成果よ。彼は頑固だが…刑事としての眼光だけは本物だわ」
藤堂がテーブルに広げた捜査資料。そこには、大野が自分の足で稼ぎ出した「業者の目撃証言」と「音の違和感」がびっしりと手書きでメモされていた。
それを見た賢人の瞳が、不敵な光を宿す。
「…なるほど。大野参事官の拾ってきたこの『違和感』…僕たちのログ解析と見事に符合します」
「えっ⁉賢人先輩、本当ですか⁉」比嘉が身を乗り出す。
「ああ。業者が持ち込んだのは工具箱ではない。高周波パルスを照射するための『超指向性スピーカー』だ。そして、彼が現場に足を運んで得た『時間のズレ』の証言によって、敵の真の狙いがこの物流センターだけではないことが証明された」
賢人は立ち上がり、ホワイトボードに数式と見取り図を書き殴っていく。
「敵の本当のターゲットは…『首都圏の交通インフラを支える自動運行管理システム』だ。物流センターはその予備実験に過ぎない」
「な…なんですって…⁉」藤堂が息を呑む。
「大野参事官の泥臭い足跡が、僕たちのロジックの『最後のピース』を埋めてくれた。…ですが、時間がありません。敵は今夜、本番のパルスと打ち込む気です」
「すぐに大野参事官に連絡して、現場(インフラセンター)の警戒に当たらせるわ!」
藤堂が警察無線を掴み、夜の街へと駆け出していく。
対立していた「足で稼ぐ現場の刑事」と「最先端の超思考」。互いの手法が図らずも共鳴し合い、舞台は首都圏崩壊を狙う決戦場へと向かっていく――!
第2話:足で稼ぐ捜査vs科学の解明 【完】
