「人々を笑わせ、そして考えさせる」ユニークな研究に贈られるイグ・ノーベル賞。
2026年(第36回)の授賞式がスイス・チューリヒで開催され、日本から医学賞と化学賞のダブルで話題を集めました。
中でも世間の耳目を集めたのが、医学賞を受賞した「正しい鼻のかみ方を特定した気体動力学的研究」です。誰もが日常的にやっている「鼻をかむ」という行為を、大真面目に、そして科学的に検証したこの研究。一体どんな内容だったのでしょうか?
その驚きの実態と背景に迫ります。
1. そもそも「鼻のかみ方」はどう研究されたのか?
医学賞を受賞したのは、故・海野徳二氏(受賞当時・和歌山県立医科大学、のち旭川医科大学名誉教授)らのチームが1977年(約50年前!)に発表した論文です。
研究グループは、鼻をかむときに体内で何が起きているのかを解明するため、以下の要素を実際に測定・分析しました。
- 呼気の速さと空気量(鼻からどれくらいのスピードと量の空気が噴き出しているのか)
- 所要時間
- 外耳道内圧の変化(耳への影響)
1-1.研究からわかった「正しい鼻のかみ方」の結論
データの分析から、効率よく安全に鼻をかむためのポイントとして以下が導き出されました。
①左右同時にではなく、片方ずつかむ
②開いている側の鼻を押さえ、もう片方から十分に息を出す(片方を塞ぐことで、通る空気のスピードが上がり、分泌物を押し出しやすくなる)
③短く何度も小出しにするのではなく、少し息を吸ってから長くしっかり吐き出す
「なんとなく片方ずつの方がよさそう」という長年の感覚を、気体動力学の観点からしっかりとデータで裏付けたのがこの研究のすごいところです。
2. なぜ今?約50年前の論文が選ばれた理由
論文が発表されたのは1977年。なぜ今になってイグ・ノーベル賞に選ばれたのでしょうか?
海野氏は2022年に89歳で亡くなっており、今回の授賞式には、教え子である旭川医科大学の高原幹教授が代理として出席しました。授賞式では、本家のノーベル賞受賞者たちが実際に「鼻をかんで」お祝いするという、イグ・ノーベル賞らしいユーモアあふれる演出で会場を沸かせました。
イグ・ノーベル賞の選考基準は「まず笑わせ、そして考えさせる」こと。
「鼻をかむ」という極めて身近で誰もが疑問に思わないような行為に、あえて物理学・流体力学のメスを入れた着眼点のユニークさと、長年埋もれていた傑出した基礎研究にスポットライトが当たる形となりました。
止まらない快挙!日本人は「20年連続」の受賞へ
今回の受賞により、日本人のイグ・ノーベル賞受賞は2007年から数えて「20年連続」という前人未踏の記録を更新しました。
また、2026年医学賞だけでなく、化学賞でも日本の研究機関を含む国際チームが受賞(胎生ゴキブリのミルク状栄養分のエネルギー効率に関する研究)しており、日本の科学者たちが持つ「身近な現象に対する知的好奇心の高さ」が改めて世界に証明される形となりました。
身近な疑問を徹底的に突き詰める科学のロマン。次に私たちが何気なく鼻をかむときは、ぜひこの「50年前の気体動力学」に思いを馳せてみてはいかがでしょう
か?

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