「大野参事官、あなたが現場で聞き出した『配管業者』の工具箱から聞こえた高音…。あれは単なる機械のノイズではなく、指向性スピーカーの共振周波数――18.4キロヘルツの音波です」
正気を取り戻した賢人の声には、先ほどまでの冷徹な冷たさはなく、力強い確信が宿っていた。
大野がメモ帳をパサリと広げ、指で強く指し示す。
「18.4キロヘルツ…⁉ああ、聞き込みしたパン屋の店主が『モスキート音みたいな不快な音が耳の奥に響いた』と言っていた!おの男、工具箱の中にスピーカーを隠して持ち込んだな⁉」
「その通りです。そして、あなたが足で突き止めた現場の移動ルートから計算すると、敵は音響パネルをインフラ管制センターの物理的な配管ネットワークに直接流し込んでいます」
賢人がホワイトボードへ高速で数式と配管図を描き出していく。
「比嘉さん!敵のパルスはネットワーク(論理)ではなく、建物の排気ダクト(物理)を通ってメインサーバーの共振器へ打ち込まれている!外部からのハッキング対策だけでは防げないはずだ!」
「な、なんですって…⁉物理的な音響攻撃(アコースティック・アタック)だったんですか⁉」
比嘉が叫びながら、爆速でキーボードを叩き、配管の振動データを画面に呼び出す。
「画面のコードばかり追っていたら、この物理的な攻撃経路には絶対に気づけなかった…!大野参事官の聞き込みがなかったら、私たちは完全に裏をかかれていました!」
大野は目を見開き、自分の手元にある泥臭いメモと、賢人がボードに描いた緻密な数式を見比べた。
「俺の…俺の足で稼いだ現場の泥臭いネタが…このお勉強データの欠陥を補ったってのか⁉」
「補うどこではりません、大野参事官」
賢人が眼鏡のブリッジをスッと押し上げ、大野を見つめる。
「あなたの刑事としての執念と現場の靴底がなければ、首都圏の交通インフラはあと3分で崩壊していました。…これが、僕たちの『統合デバッグ』です」
「小僧…」大野の目から、民間人への蔑視と不信感が完全に消え去っていた。
「藤堂さん、大野参事官!」賢人の瞳が不敵に輝く。
「敵が物理ダクトから打ち込んでいる高周波のパルスの位相を反転させ、スピーカーの出力を逆に利用して敵の潜伏サーバーへ逆流(フィードバック)させます。そのたには、現場のダクト内にある手動ダンパーを直接操作する必要があります」
「手動ダンパーdと…⁉どこにある!」大野が身を乗り出す。
「地下2階の第3排気室です。ですが、高周波が充満していて一般人では眩暈で辿り着けません」
「ハッ、舐めるなよ!」
大野が大げさにダブダブのスーツの袖をまくり上げた。
「俺の足腰と現場魂を何だと思っていやがる!耳鳴りの一つや二つ、気合でねじ伏せてやるよ!」
「大野参事官、私も行きます!」藤堂が引き締まった表情で前に出る。
「比嘉さん、ダンパー操作のタイミングを0.1秒単位で大野参事官たちへ指示してくれ。エラさん、高周波の共振を抑える干渉波の生成を」
「了解ですっ!マイク経由でリアルタイムナビ入りますっ!」
「ええ、任せて。賢人のロジックを完璧に通してみせるわ」
対立していた「泥臭い現場の刑事」と「天才サラリーマンの超思考」が、完全にひとつのギアとして噛み合った。
首都圏崩壊まで、あと120秒――!
第4話:見え始めた共鳴 【完】
次回 [第5話:泥臭い信念と、最先端ロジック融合はこちら➡]

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