「——解(コード)は見えた!」
賢人の瞳から放たれた鋭いロジックの光が、空間を満たす重力改ざんエラーを貫く。
「比嘉さん!Gravity_Offsetの数式パラメータに、僕の脳波から生成した逆関数を叩き込め!」
「は、はいっ!賢人先輩の超思考ロジック、直結(ダイレクト)インポート…爆速で叩き込みますっ‼」
比嘉の指先が虚空を駆け抜け、光のキーボードが出現する。
パァァァン…‼
空間を押し潰していた重密度の圧迫が一瞬で弾け飛び、チームslaboを縛り付けていた黒い鎖が光の粒子となって霧散した。
「ふぅ…身体が軽くなったぜ!」
大野が肩を叩きながら不敵に笑う。
上空に浮かぶ鳴海零の影が、かすかに不機嫌そうに目を細めた。
『さすがだな、賢人。仮想空間のプログラム領域へ直接脳波を介入させ、物理パラメータを書き換えるか。だが…この『楽園』の最深部へ至る扉は、単なるコードの計算だけでは開かない』
鳴海のホログラムが掻き消えると同時に、塔のゲート前に不気味な黒いモザイク状のアバター群が出現した。
「敵のセキュリティ・プログラム(ガーディアン)ね…!」藤堂が警戒の姿勢をとる。
「賢人先輩、ダメです!この防衛プログラム、攻撃を受けるたびにアルゴリズムを自己進化させて無敵化していきます!コードの解析が追いつきません!」
比嘉が汗を流しながら叫ぶ。
その時—。
「おい。画面のコードばかり追ってんじゃねえぞ、お嬢ちゃん」
重厚な声とともに、前に歩み出たのは叩き上げの刑事・大野厳造だった。
「お、大野参事官⁉危険です、そのアバターたちは物理攻撃が効かない…」
「ハッ!物理だろうがデジタルだろうが関係ねえんだよ」
大野は鋭い眼光で、迫りくる黒いモザイクアバター群の「足元」をギラリと睨みつけた。
「おい小僧(賢人)、よく見てみろ。この人形ども…動きは完璧な計算に見えるが、地面を踏みしめる『足音のズレ』と『ログの歪み』がある。こいつらは完全な人工知能じゃねえ。現実世界で意識不明になってる『被害者たちの残像(足痕)』をプログラミングの盾に使ってやがるんだ!」
「なんですって⁉」藤堂が息を呑む。
賢人の瞳が大きく見開かれた。
(そうか…!鳴海は被害者たちの脳波ログを防御壁(プロキシ)として利用している。だからランダムな挙動に見え、自己進化しているように錯覚していたのか…!)
「大野参事官…!よくぞ見抜いてくれました!」
賢人は不敵な笑みを浮かべ、眼鏡のブリッジをスッと押し上げた。
「足痕(ログ)のパターンさえ分かれば、被害者の意識を傷つけずに防御壁だけを切り離す(デバッグする)ことができます!」
「おうよ!泥臭い現場の足跡を拾うのが、俺たち警察官の仕事だ!」
大野が力強く大地を踏みしめる。
「比嘉!俺が指示する『足音のズレ(歩幅パラメータ)』のポイントに、ピンポイントで分離コードを叩き込め!藤堂、行くぞ!」
「了解です、参事官!」
昭和・平成の泥臭い刑事魂が、仮想空間のサイバー攻撃を見事に見破り、突破口を切り開いていく。
「大野参事官が指し示してくれたポイント…分離プログラム、照射‼」
比嘉の放った光のコードが黒いモザイクを直撃。被害者たちの意識ログが優しく解放され、防衛プログラミングが次々と霧散していった。
「す、すごいです…!警察官の勘と賢人先輩のロジックが、完璧に噛み合いました!」
「ふふ、見事な連携ね」エラが優しく微笑む。
開かれた最深部への扉。その向こうには、現実世界の身体を捨て、デジタル空間に永遠にとどまろうする被害者たちの意識、そして鳴海零の真の企みがまっていた―。
第3話:アバターの足痕 【完】

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