持続可能なエネルギーへの転換は、私たち人類にとって緊急な課題です。その解決策の一つとして、近年注目を集めているのが「藻類オイル」です。環境負荷を低減し、新たなエネルギー源としての可能性を秘めた藻類オイルについて、この記事で詳しくご紹介します。
1.藻類オイルとは?
藻類オイルとは、微細藻類と呼ばれる植物プランクトンから抽出される油のことです。微細藻類は光合成によって二酸化炭素を吸収し、油分を蓄える性質を持っています。そのため、藻類オイルは、環境負荷が低く、持続可能なエネルギー源として期待されています。
2.環境へのメリット
藻類オイルは従来のバイオ燃料に比べ地球環境保全の効果が高いと言われています。その理由を以下に紹介します。
その1 大気中の二酸化炭素の削減
微細藻類は、成長過程で大気中の二酸化炭素を吸収します。そのため、藻類オイルの生産は、二酸化炭素の削減に貢献します。
その2 高い生産性
微細藻類は陸上の植物に比べて成長が早く、単位面積あたりの油の生産量が多いという特徴があります。
その3 多様な環境での育成
微細藻類は、海水や淡水、砂漠など、多様な環境で育成することができます。そのため、食料生産と競合しない土地や、従来農業が困難であった土地での生産が可能です。
その4 バイオ燃料への利用
藻類オイルは、バイオディーゼル燃料やバイオジェット燃料など、様々なバイオ燃料に変換することができます。
3.製造プロセスの科学的解説
藻類オイルの製造プロセスは、藻類の培養からオイルの抽出、精製まで、いくつかの段階を経て行われます。その段階ごとに分けてそれぞれを説明します。
第1段階 藻類の培養
より効率よくオイルを生産するのに適した藻類の種類と培養条件を決めます。
藻類の選定と培養条件
- オイル生産に適した藻類の種類を選定します。例えば、油脂生産量の多いオーランチオキトリウムやボトリオコッカスなどが用いられます。
- 藻類の成長に必要な光、栄養素(窒素、リンなど)、二酸化炭素、温度、pHなどを最適化します。
- 培養方法は、解放型(池など)と閉鎖型(光バイオリアクターなど)があります。閉鎖型は、培養条件の制御が容易で、汚染のリスクが低いという利点があります。
光合成と油脂生成
藻類は光合成によって二酸化炭素と水から有機物を生成し、その過程で油脂を蓄積します。培養条件を調整することで、油脂の生産量を増加させることができます。
第2段階藻体の回収と乾燥
藻体からオイルを取りだすには①藻体を培養液から取りだす。②藻体を乾燥する。の過程を経る必要があります。
①藻体の回収
培養液から藻体を分離・回収します。回収方法としては、遠心分離、ろ過、凝集沈殿などが用いられます。
藻の種類や培養規模に応じて、最適な回収方法を選択します。
②藻体の乾燥
・回収した藻体から水分を除去し、乾燥させます。乾燥方法としては、天日乾燥、噴霧乾燥、凍結乾燥などが用いられます。
・乾燥させることで、オイルの抽出効率を高め、保存性を向上させます。
第3段階 オイルの抽出
乾燥させた藻体からオイルを抽出するには、①藻体の細胞を破砕する。②オイルを抽出の過程を経ます。
①細胞破砕
乾燥した藻体の細胞壁を破砕し、オイルを抽出しやすくします。破砕方法としては、機械的破砕(ボールミルなど)、超音波処理、酵素処理などが用いられます。
②オイル抽出
破砕した藻体からオイルを抽出する方法としては、溶媒抽出(ヘキサンなど)、圧搾抽出、超臨界二酸化炭素抽出などが用いられます。
抽出されたオイルは、不純物を含むため、次の精製工程が必要です。
第4段階 オイルの精製
脱ガム、脱酸、脱色、脱臭
・抽出されたオイルから、リン脂質、遊離脂肪酸、色素、臭気などの不純物を除去します。
これらの工程により、オイルの品質を高め、用途に応じた特性を付与します。
製造プロセスの科学的ポイント
・藻類の選定と培養条件、オイルの生産効率を大きく左右します。
・細胞破砕とオイル抽出の効率化が、製造コストの削減に繋がります。
・精製工程の最適化が、オイルの品質向上に不可欠です。
藻類オイルの製造プロセスは、まだ研究開発途上にあり、さらなる効率化とコスト削減が求められています。
4.最新研究成果
・遺伝子操作による藻類改良
近年、遺伝子編集技術の進歩により、藻類の遺伝子を効率的に改変することが可能になりました。これにより、オイル生産量の増加、特定の脂肪酸組成の改変、耐環境性の向上など、様々な形質改良が実現しています。
特に、オイルを細胞外に生産する藻類の作製に成功した研究は、従来の抽出工程を大幅に簡略化し、製造コスト削減に貢献する可能性をしめしています。
・オイル生産効率の向上
藻類の培養条件の最適化や、光合成効率の向上に関する研究が進められています。
また、特定の栄養素や光の波長を制御することで、オイル生産を増加させる技術も開発されています。
詳しい研究の成果については以下をどうぞ
東工大学ニュース
https://www.titech.ac.jp/news/2017/037572
https://www.titech.ac.jp/news/2019/044801
https://www.titech.ac.jp/news/2022/063229
・多様な用途への応用
バイオ燃料だけでなく、食品、化粧品、医薬品など、様々な分野への応用研究が進んでいます。
藻類から抽出されたオイルを使ったか商品が誕生し、販売されています。
藻類由来のバイオジェット燃料を国内定期便に供給する試みも行われています。
5.課題
・製造コストの削減
藻類オイルの製造コストは、従来の化石燃料に比べてまだ高く、実用化の大きな課題となっています。
大規模な培養施設の建設や、効率的なオイル抽出・精製技術の開発が必要です。
・大規模培養の技術確立
安定した藻類の大量培養技術の確立が求められています。
屋外での培養は、天候や環境の影響を受けやすく、安定した生産が難しいという課題があります。
・環境負荷の低減
藻類培養には、大量の水や栄養素が必要となります。持続可能な生産のためには、これらの資源の効率的な利用や、排水処理技術の開発が必要です。
今後の展望とまとめ
・技術革新によるコスト削減
遺伝子操作による藻類改良や、効率的な培養・抽出技術の開発により、製造コストは大幅に削減されると期待されています。
・バイオ燃料の普及
航空機燃料や船舶燃料など、既存の燃料システムに適合するバイオ燃料としての利用が期待されています。
・高付加価値製品の開発
藻類オイルに含まれる機能性成分を活用した、高付加価値な食品や化粧品、医薬品の開発が進むと予想されます。
・持続可能な社会への貢献
藻類オイルは、二酸化炭素削減や資源循環に貢献し、持続可能な社会の実現に貢献する可能性を秘めています。
藻類オイルは、まだ多くの課題を抱えていますが、技術革新より、これらの課題が克服されれば、私たちの生活や産業に大きな変革をもたらすでしょう。